緋と静寂の自鳴琴
[状況]
ラ・ファエルの処刑が決まり、執行される日が来た。
だが、ラ・ファエルは処刑される寸前、その瞳を赤に変え、焔となる。
アリスに正体を明かし、ヴァンパイアのもとへと帰った焔。
焔の感情――――『悲しみ』が欠落していること。人間とヴァンパイアの血を持つこと。
アリスは彼の生い立ちを知った。
そして、鏡団とヴァンパイアが和解したのち、アリスは焔に会いに行くのだが……。
【焔】
「ああ、どっかで見た顔だと思ったら」
【アリス】
「忘れたふりなんかするな」
【焔】
「何の用?」
【アリス】
「会いに来たんだよ」
【焔】
「この忙しい時期に、城を抜け出して?
鏡皇のすることかねぇ、それが」
【アリス】
「息抜きの仕方を教えたのは、お前だ」
【焔】
「俺だったモノだよ」
【アリス】
「いーや、お前だね」
【焔】
「…………」
【アリス】
「悲しいって、わからなくてもさ。
笑ったりは出来るんだろ?」
【アリス】
「なのに、どうして笑ってくれないんだ?
せっかくまた……会えたのに」
【焔】
「面白くないからじゃない?」
【焔】
「それとも、楽しくもないのに笑えって?
大人の付き合いをしたいなら、四百年くらい経ってからおいで」
【アリス】
「…………」
【焔】
「俺の仕事は終わったからさぁ。
君に対して、笑う必要もないんだよね」
【アリス】
「…………」
【焔】
「……何」
【アリス】
「いや、昔はよくこうしてたなって」
【焔】
「それで?」
【アリス】
「焔とも、ガキの頃からの付き合いをしようかと思ってさ」
【焔】
「ごめんだな、かったるい」
【焔】
「俺はさぁ、他人の面倒が嫌いなのよ。
まぁ、子供は好きな方だけどね」
【アリス】
「…………」
【焔】
「君は可愛い子供だけど、道端に転がってる人形と同じ価値しかない」
【焔】
「犬の玩具になろうが、馬車に踏まれようが、どうでもいい」
【アリス】
「嘘だ。だって、お前は優しい。
……放っておくはずない」
【焔】
「……そうだなぁ」
【焔】
「確かに俺は優しいから、もしかしたら『誰かに拾われるといいね』って、壁に蹴り付けるくらいのことはしてやるかもね」
【アリス】
「だったら仕事だと思って、その人形を拾えばいい」
【焔】
「俺の仕事はゴミ拾いかい? お坊ちゃん」
【アリス】
「……教えてくれ。
どうしたら、前みたいに話してくれるんだ」
【焔】
「あの人に、命じられれば」
【アリス】
「なんて?」
【焔】
「鏡皇を殺せ」
【アリス】
「…………」
【アリス】
「迷わずに言ったな、お前。
……いいけどさ、別に」
【焔】
「へぇ。俺に襲われたい願望でもあんの?」
【アリス】
「…………」
【アリス】
「……かもな」
【焔】
「はっ、キモチわる。
苛められて喜ぶ奴を相手にする気はないよ」
【アリス】
「……。お前の言葉は、もう信じない」
【アリス】
「だけど、お前と一緒にいた時間だけは、信じてるんだ」
【焔】
「…………」
【焔】
「馬鹿なのは知ってたけど、これはもう救えない馬鹿だな」
【焔】
「……暑苦しいよ、離れて」
【アリス】
「いやだ」
【アリス】
「ここに、いたいんだ……ラ・ファエル」
【焔】
「ラ・ファエルは死んだ。儀式の間でね」
【焔】
「鏡皇に求められ、受け入れて、殺された。
もうどこにもいないよ、あいつは」
【アリス】
「違う!」
【焔】
「うるせーな。耳元で怒鳴るな、ガキ」
【アリス】
「……っ」
【焔】
「俺がほんの少し力を入れれば、お前なんか一瞬で殺せるんだよ」
【アリス】
「でも、しない。
……命令がないんだから」
【焔】
「…………」
【アリス】
「お前がこの国にいる間は、毎日だって来てやる。
逃げたって、無駄なんだからな」
【アリス】
「……絶対に、探しだしてやる」
【焔】
「…………」
【焔】
「……。はぁ。
ほんと、付き合ってられないなぁ」 |