優しい君へ


 優しくも悲しい色をした夢。すぐに彼のものだと気付く。
 彼は彼の世界で、ひとり立ち尽くしていた。

 黒く長い髪が、愛しい人を思い出させる。これは、貴女からの贈り物だろうか。
 器を失ってもなお、愛し続けてくれる貴女には、どんなに感謝の言葉を重ねても、足りはしないだろう。

 俺の姿を見つけた少年が、一歩、足を踏み出した。
 今にも涙を零しそうな瞳に、胸が締め付けられる。

 ああ、でも。でも俺は、いまとても嬉しい。
 計り知れない痛みと傷を与えてしまったというのに、それでも嬉しいんだ。

 君に伝えたいことがあった。
 俺たちが愛した幼いあの子の親友に、伝えたかった。

 苦しまないで。俺の願いは、全て叶った。
 愛しい人の封印は解かれ、花も咲き、あいつはいま、笑ってくれてる。
 大切な人たちを悲しませてしまったけれど、それでも、幸せだと笑ってくれるひとがいるんだ。
 そして、どんな形だったとしても、俺は君に会うことが出来た。

 もちろん、寂しくないって言ったら嘘になるけどね。

『生きてくれて、ありがとう』

 音にならない声が、ほんの少しもどかしい。
 微笑んでみた。幸せだよと、伝えられるように。
 少年は、驚いた顔をしてから、そっと笑みを返してくれた。


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 夢の中、少年が『親友』の話をして笑う。
 嬉しそうに、楽しそうに。

 幸せなんだね。生きていることを、喜びと感じてくれているんだね。
 もっと聞きたい。もっとたくさん、君の話を聞いていたい。

 ――――だけど、夢は覚めるから。
 今、お願いをしてもいい?

 君に会えて、もし話をすることが出来たなら、言おうと思ってたことがある。
 いまとなっては、ただの身勝手な願いだけれど。
 君の中にあいつの血があるなら、もう届いているかも知れないね。

 側にいてあげて欲しい。
 俺たちの大切な宝物だった、あの子の側に。
 誰よりも近くで、一緒に泣いて、笑ってあげて欲しい。

 ……それから、もうひとつ。
 時々でいいから、あいつの側にもいてやって欲しいんだ。
 他愛のない話をして、ひとりの時間を壊してやって。

 不器用で、うまく笑ったりすることの出来ない奴だけど、すごく優しいから。
 困ったことがあったら、伝えてごらん。
 君のことも、あの子のことも、必ず守ってくれる。
 信じていいよ。俺の自慢の親友なんだ。


 太陽が君を起こすまで、まだ少し時間がある。
 話の続きをしようか。

 君と、俺の、大切な親友の話を。