暗い森を彷徨った後


〔森/アリス〕

「・・・なんで、何で、出られないんだ・・・。」

一体どれだけの時間を歩いただろう・・・。
体は重い、お腹も減った。

暗い森の景色は一向に変わらず
時間の変化も感じられない。

もしかしたら
体は疲弊しているが、
そんなに歩いてはいないのかもしれない。

歩いていれば、いつか森の外に出られる。

そう思って頑張っていたけれど
変わらない景色に体が限界を訴える。

「これだけ歩けば、森を出ていても不思議じゃないのに・・・」

ちょっと休もうと腰を下ろすと
疲れがどっと出る。
・・・もう歩けそうも無い。

なんだか眠くなってきた・・・

もう今日は寝てしまって、明日また頑張って歩こう

まぶたが落ちる
・・・眠い

『・・・・・・寝ちゃ、駄目だよ・・・。』

・・・駄目だよ、もう眠い
目が開かないんだ

『今寝たら、もう起きられない・・・。もう少し頑張るんだ。』

だって、一向に景色が変わらないし・・・
無理だよ

『・・・大丈夫。僕が案内してあげるよ。』

『帰ろう、・・・城へ・・・。』

聞いたことも無い声・・・
でも、懐かしい感じがする。

・・・・・・会った事が・・・ある・・・?


〔城〜森/狼哭〕

『・・・ろ・・・哭・・・』

「・・・双氷?」
懐かしい声が聞こえた気がした。

あるはずも無い。
・・・もういないのだから。

だけど、少しだけ気になって外に気を向けると

「・・・・・・・ん?」

数日前に感じた同じ妙な気配。
あいつ、また来たのか・・・?

戻るように言おうと向かった先に・・・

「・・・双氷!?」

懐かしい姿を見かけた・・・気がした。
だが、一瞬見えた姿は闇に掻き消えて
その場所にいたのは、
数日前に戻るよう伝えた、少年の姿。

意識はなく、衰弱しているようにも見える

このままにはしておけない・・・が
城に連れて行っても良いものなのか・・・?

さすがにこの状態のこいつを鏡団に
連れて行くと色々ややこしい事になりそうだし。
かといって、城に連れて行くのも
色々問題がある。

「・・・・・・困った。」

正直、面倒くさいことは苦手なんだ。
放っておこうか・・・そんな事もよぎった。
しかし、一瞬見えた双氷の姿。

「・・・助けろって事か?
 ・・・・・・そんなのお前がやれよな。」

そんな事をつぶやきながら
アリスを城に連れ帰った・・・。


〔城/アリス〕

《・・・何で、ここにアリスが・・・?》

《・・・・・・森で拾った。》

遠くで声が聞こえる。
でも、遠すぎる・・・。
何を言っているかが分からない。

『拾った、なんて・・・他に表現あっただろうに。』

笑っているような、懐かしんでるような・・・
そんな響きの声が近くから聞こえた。

「・・・誰?」

『ごめんね・・・。少しの間、体を借りるよ。』

「体を借りる・・・?」

誰という問いに答える事も無く
その声は聞こえなくなり、・・・意識が遠くなった。


〔城/黒耀〕

ふと気配を感じた。

「・・・誰だ?」

身動きの出来ない体では誰か見る事は叶わないが
誰かいるのは確実だ。
そして、なじみの者でもない事も確実だ。

『そのままで聞いて欲しいな・・・。』

ただ話をしに来ただけだから、とその者は言う。

「・・・まあ、暇はもてあましておる。話があるのなら話すが良い。」

何故だか、その話を聞いてみたいと思った。

『ありがとう・・・。』
『・・・黒耀、君は・・・・・・泣いたかい?』

何に対して?という思いはすぐに消えた。
そう、泣くと言う事で思い出す事。
思い出す人物・・・。

「泣く・・・か。無理であろう。
 私たちは、泣かないよ。・・・私たちは、な。」

最後の言葉は、つぶやくように小さく。
誰かに対して言うような響きで・・・。

『そうだね、君たちは泣かない。・・・だから、心配なんだけどね。』

とても、ね。と付け足して。

「・・・」

そこにいる人物は、思い出す人物とは違うはずなのに
何故か同じに思えて・・・

『・・・お礼をね、言いにきたんだ。』

お礼・・・その言葉がお別れに聞こえ

『ありがとう。・・・本当は、もっと一緒にいたかったよ。』

言葉と同時に気配が消えた。


〔城/風哭〕

「・・・ん?」

ふと気配がして、気配の方に視線を向ける。
気配はあるが姿は見えない。
そして、なじみの無い気配だ。

「・・・誰だ。」

『そう、殺気を出さないで欲しいな。』

知っている声のようで、だがなじみのない言葉遣い。

『姿は見せないでおくよ。混乱しそうだしね。』

「一体誰だ。」

『風哭、君は、君の信じられる道を見つけたのかい?』

「僕の信じられる道・・・?」

なんとなく何のことを言っているのかは分かった。
だが、何故それを言われるのかが分からなかった・・・。

『少し羨ましいな。・・・僕には出来なかった事だから。』

「・・・まだ、もしかしたら、という程度だ。」

『ふふ、そうか。』

でも、信じられそうなんだね。
そう言いながら微笑まれた気がした。

「お前は・・・。」

なんとなく、ある人物が思い浮かんだ。
だが、その人物は・・・。

『・・・そろそろ移動しないとまずいかな。』

ごめんね、もうちょっと話していたかったけど、と
気配が遠ざかる

「ま、待て!」

『大丈夫だよ。君の信じる道を進んで・・・。』

そんな言葉を残して、気配は完全に消えてなくなった。

〔城/?〕

「本当は、皆にお別れを言いたかったんだけど・・・。」

影哭は、なんとなく会わないほうがいい気もする・・・。
狼哭は、言いたい事は間際に言ったかな。

言いたい事は本当はたくさんある
だが、きりが無い。
この体にも負担がかかるし、潮時だろう・・・。

「ひとまず、森の外まで行かないとね。」

また迷っても困るだろうしね。
と、呟いて城を出る。

・・・名残惜しく、一目振り返ってから。

〔森の外/アリス〕

意識が浮上する
もうちょっとで目がさめそうな意識下で

『ごめんね・・・。もう一度だけ会いたかった』

聞いたことが無いはずなのに
どこか懐かしい声が聞こえる・・・。

『もっと一緒にいたかった・・・。一緒に生きていたかった・・・』

『ありがとう、少しでも皆と会えて嬉しかった。』

『そして・・・、アリス、君にまた会えてよかったよ・・・。』

ここにいた時の記憶は、もらっていくよ。
君には辛いだけだろうから

君は君のやり方で皆を救って・・・

最後の方は、声ではなく・・・思い。
そんな思いを受け取った気がした。

記憶は消えてもこの思いは、残るだろうか・・・?


そして、目が覚める。

「・・・ん?ここ、何処だ?」

「つーか、今何時!?
 ・・・やばいっ、日が暮れてる!」

『・・・・・・』

「・・・?」

声が聞こえた気がした・・・

「・・・・・・そう・・・ひ?」

知らない響きが口からこぼれた
悲しく懐かしい響き

「・・・何だっけ?
 そんな事より、鏡団に早く帰らないと!!」

かすかな疑問は、焦りと不安に掻き消された。